おじいちゃんとドーナツのはなし
仕事が午前中には終わった。
しかも朝からバシバシ降ってた雨が止んで、晴れ間なんか見えちゃったりして。
経験上、こういうときはやばい。
一日がまだたくさん残ってる開放感と
仕事おわりの自分にご褒美あげたい症候群で物欲が爆発してしまうことが多い。
新宿とか吉祥寺とか可愛いお店がたくさんある街で寄り道したら最後だ。
お財布の紐をぐぐぐと締めて、電車に乗って、おじいちゃんの家に行くことにした。
おじいちゃんの家に、こないだ「オレオレ詐欺」の電話がかかってきたらしい。
びっくり。そんなのまだあるんだ、と思いつつ。
「オレオレ詐欺」の予防も含め、せっかくだから会いに行くことにした。
とは言っても、2週間ぶりくらいだけど。
何度目かの結婚報告。
「私、結婚したんだよー」
「旦那さんはなにしてる人なんだ?」
「料理人さんだよ」
「そしたら美味しいご飯食べられていいね」
「休みの日だけだけどね」
毎回ほぼ同じような内容で報告をして、必ず最後にはおじいちゃんの「仲良くするんだよ」で終わる。
「ばあさんはおっかなかったからな。おっかなくしちゃダメだよ」って言って、ニコニコ笑う。
おじいちゃんは92歳。
私が結婚したってことは何回言っても覚えてくれないけど(旦那さんであるはやおくん本人にも、もう2回会ってる)おばあちゃんとの浅草での初デートについては事細かに覚えてる。
思い出話をいろいろして。
自治会の会議に欠席します、みたいな手紙を頼まれて代筆して。
みかんの缶詰をたくさんもらって。
また来るねーって言って30分くらいで帰る。
いつも外まで出てきて、私が見えなくなるまで見送ってくれてたのが、玄関までになって。
何時間でもダラダラ一緒にテレビ見てたのに、あんまり長居をさせてくれなくなって。
その変化が私自身、いまだに受け入れられない。
でも変わらずにいつも「ありがとう、ありがとう」って言って見送ってくれる。
悲しいとはちょっと違うんだけど、胸がいっぱいになって、帰り道はいつもちょっと泣いてしまう。
散財をしなかったご褒美に、駅前のドーナツやさんで砂糖でべったべたにコーティングされたドーナツ買って帰っておやつに食べた。
今度こないだの結婚式の日におじいちゃんと一緒に撮った写真、印刷して持っていこうと思ってる。
おわり